相続トラブル】実家に住み続けた長男は「特別受益」になる?無償居住を巡る争いを弁護士が解説
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「兄は家賃タダなのに、私は…」実家での無償居住は特別受益にあたるのか?
相続が発生した際、「長年、亡くなった親と同居して実家に住み続けていた相続人」がいらっしゃるケースは少なくありません。特に、親の面倒を見ていた長男が、そのまま実家を引き継ぐことを当然と考えている場合も多いでしょう。
しかし、他の相続人からすると、このような状況に疑問や不満が生じることがあります。
「自分は家賃を払い続けていたのに、あの人は家をタダで使っていたじゃないか。その家賃相当額は、相続の際に考慮されるべき『特別受益』ではないのか?」
このようなご相談は、私たち弁護士法人かがりび綜合法律事務所にも非常に多く寄せられます。親子間の情愛が複雑に絡み合い、法律だけでは割り切れない感情的な対立を生みやすいテーマです。
今回は、この**「実家への無償居住が相続における特別受益にあたるのか?」**という、非常に多くご相談をいただくテーマについて、相続専門弁護士が詳しく解説します。
この記事を読めば、
- 相続における「特別受益」とは何か
- 実家での無償居住がなぜ問題になるのか
- 過去の裁判所は無償居住を特別受益と判断するのか、しないのか
- 無償居住があった場合の遺産分割はどのように進められるのか
- トラブルを未然に防ぐための具体的な対策
といった点が明確になります。実家を巡る相続トラブルでお悩みの方は、ぜひ最後までお読みください。
1. 相続における「特別受益」とは?
まず、特別受益とは何か、その定義と目的を改めて確認しましょう。
特別受益の定義と目的
特別受益とは、共同相続人の中に、被相続人(亡くなった方)から生前に、遺贈(遺言による贈与)または生計の資本としての贈与を受けた人がいる場合に、その受けた利益(特別受益)を相続財産に持ち戻して(加えて)から、各相続人の具体的な相続分を計算するという民法のルールです(民法第903条)。
これは、相続人間の公平を図るための制度です。
具体例で考えてみましょう。 相続人が長男と二男の2人、相続財産が預貯金2,000万円だったとします。 もし長男が親から生前にマイホームの購入資金として1,000万円の援助を受けていた場合、この1,000万円が特別受益にあたります。
特別受益の制度がなければ、長男と二男はそれぞれ1,000万円ずつ遺産を分割することになりますが、これでは生前援助を受けていない二男との間で不公平が生じます。
そこで、特別受益の制度を適用し、生前の援助分である1,000万円を相続財産に「持ち戻し」て計算し直します。
- 遺産総額(2,000万円) + 特別受益(1,000万円) = みなし相続財産(3,000万円)
このみなし相続財産を法定相続分に従って分割します。長男と二男の法定相続分はそれぞれ2分の1なので、各自の相続分は1,500万円となります。
そして、長男はすでに生前援助として1,000万円を受け取っているため、実際に受け取る遺産は1,500万円 – 1,000万円 = 500万円となります。一方、二男は全額である1,500万円を受け取ります。
このように、特別受益は、生前の援助分を考慮することで、最終的な相続の公平性を保つための非常に重要な制度です。
2. 実家への「無償居住」は特別受益にあたるのか?なぜ問題になる?
では、本題です。被相続人である親が所有する家に、相続人の一人が家賃を支払うことなく長年住み続けていた場合、その「無償で住むことができた利益(居住利益)」は、親からの生前贈与、つまり特別受益にあたるのでしょうか?
感情的な側面からの主張
他の相続人から見れば、その相続人は家賃相当額の利益を得ていたのだから、それは特別受益として相続財産に持ち戻すべきだと主張したくなる気持ちは理解できます。
- 「兄は、家賃を払う必要がなかったから、その分貯金ができたはずだ。私はその間、ずっと家賃を払い続けてきた」
- 「家賃相場が月10万円だとすると、20年間で2,400万円もの利益を得ていたことになる。これは遺産分割で考慮すべきだ」
特に、同居していた相続人が親の面倒を見ていたなどの特別な事情がない場合は、他の相続人の不満はより一層強くなるかもしれません。
法律的な側面からの判断
しかし、法律は感情的な側面だけで判断するわけではありません。特別受益にあたるのは「生計の資本としての贈与」や「婚姻・養子縁組のための贈与」など、一定の目的をもった多額の贈与に限られます。
では、無償居住はこれらにあたるのでしょうか?
3. 裁判所の考え方 – 無償居住は特別受益にあたらないと判断されることが多い
この点について、過去の多くの裁判例では、実家での無償居住は特別受益にあたらないと判断される傾向にあります。
なぜ特別受益と認められないのか?
その理由は、主に以下の2点にあります。
- 扶養的な関係の性質:
- 多くの裁判例は、親子間の情愛に基づく扶養的な関係から、被相続人である親が子を無償で居住させていたにすぎない場合は、その居住利益を特別受益にあたらないと判断しています。
- これは、独立した所有権を得させる意図や、他の相続人への配慮を欠いた一方的な多額の贈与とは異なると考えられるからです。
- 生活の援助の一環:
- 無償居住は、親が子に対して行っていた「生活の援助の一環」と捉えられます。
- 扶養義務は、親が子に対して負うものであり、その義務の一環として住まわせていただけであって、相続分の前渡しという特別受益にはあたらない、という考え方です。
特別受益と判断される可能性のある例外
もちろん、ケースによっては特別受益と判断される余地が全くないわけではありません。例えば、以下のような例外的なケースでは、判断が分かれる可能性があります。
- 無償居住が、他の相続人の権利を侵害する意図で行われたと強く推測される場合
- 例えば、親の意思に反して、特定の相続人が実家を不法に占拠していたような場合です。
- 居住していた建物が非常に高額で、居住期間も極めて長く、家賃相当額が他の相続人の相続分を著しく上回るような例外的な場合
- 例えば、都心の一等地にある億単位の不動産に、特定の相続人が数十年間無償で居住していたようなケースです。
しかし、一般的には、親子間の情愛に基づく扶養的な性質が強いと判断され、特別受益とは認められないケースが多いのが実情です。
4. 無償居住があった場合の遺産分割はどうなる?
無償居住が特別受益にあたらないと判断された場合、原則として、その居住利益を相続財産に持ち戻して遺産分割協議を行う必要はありません。
つまり、実家に住んでいた相続人も、他の相続人と同じように、法定相続分に応じて遺産を分割することになります。
ただし、この結論は法律的な側面からのものであり、感情的な側面は残る可能性があります。
- 住み続けた相続人の主張: 「ずっと住んでたんだから、他の相続人より多くもらうべきだ」
- 他の相続人の不満: 「自分ばかり損をしている」
といった対立が生じやすく、話し合いでの解決が難しいケースも少なくありません。
このような場合、感情的な対立が深まる前に、弁護士という第三者の専門家が間に入り、冷静な話し合いをサポートすることが非常に重要になります。
5. 無償居住を巡る相続トラブルを避けるために
このような無償居住を巡る相続トラブルを避けるためには、以下の点が重要になります。
1. 生前の話し合い
被相続人(親)が元気なうちに、家族全員で実家をどうするのか話し合っておくことが最も理想的です。
- 実家を誰が相続するのか。
- 住み続ける相続人は、他の相続人とどのように調整するのか。
- 実家を売却して代金を分けるのか。
これらの点を事前に明確にしておくことで、無用な争いを防ぐことができます。
2. 遺言書の作成
被相続人である親が遺言書を作成し、実家を特定の相続人に相続させる意向や、他の相続人への配慮を明記しておくことで、無用な争いを防ぐことができます。
- 付言事項の活用:
- 「長男には、長年私の面倒を見てくれた感謝として、自宅を相続させます。他の子どもたちには、申し訳なく思いますが、この遺言を尊重してくれることを願います」
- このような付言事項は、親の真意を子どもたちに伝える上で、非常に大きな意味をもちます。

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