弁護士野条健人の相続ブログ|「実家」の相続で後悔しないために:トラブルを避ける3つの秘訣
こんにちは。弁護士の野条健人です。 今回のブログでは、ご相談の中でも特に多い、「住んでいる家」、つまり実家の相続についてお話ししたいと思います。
実家は、単なる建物ではありません。 ご両親との思い出が詰まった場所であり、ご家族にとってかけがえのない大切な宝物です。 しかし、その実家が、相続の場面でご家族を不幸にする**「争族」**の火種になってしまうことがあります。
「まさか、うちが?」と思われるかもしれませんが、実家をめぐる相続トラブルは、どんな仲の良いご家族にも起こり得ることなのです。
なぜ「実家」が相続トラブルになりやすいのか
実家の相続がトラブルに発展しやすい理由は、主に以下の3つです。
- 感情的な価値が絡むから 実家には、金銭的な価値だけでなく、ご家族の思い出や歴史といった「感情的な価値」が大きく絡んでいます。 「この家は私が生まれてからずっと住んでいた家だ」 「両親が大切にしていた庭は、絶対に手放したくない」 このような感情的な想いが、冷静な話し合いを妨げ、対立を深めてしまうことがあります。
- 簡単に分けられないから 現金や預貯金のように、100万円を2人で50万円ずつと簡単に分けることができません。 「兄が住むから、兄が全部相続すればいい」 「いや、妹も平等に権利があるだろう」 というように、具体的な分割方法を巡って意見が対立することが多々あります。
- 相続人の状況がそれぞれ違うから 長男は実家に住んでいて、長女は遠方に嫁いでいるなど、相続人一人ひとりの状況は様々です。 「実家に住む私は、このまま住み続けたい」 「私には持ち家があるから、代わりに現金を公平に分けてほしい」 こうした異なる希望が、話し合いを複雑にしてしまいます。
このように、実家は「分けにくい」「評価が難しい」「感情が絡む」という3つの要素が複雑に絡み合い、トラブルに発展しやすいのです。
「実家」の相続で後悔しないための3つの秘訣と解決事例
では、実家の相続で後悔しないためには、どうすれば良いのでしょうか。 私がこれまでご相談を受けてきた経験から、最も重要だと感じる3つの秘訣と、具体的な解決事例をご紹介します。
秘訣1:親の意思を明確にする
最も重要なのは、ご両親が生きている間に、実家をどうしてほしいか、その意思を明確にしておくことです。
「実家は長男に継がせたい」 「将来誰も住む予定がないから、売却して、そのお金を子どもたちで分けてほしい」
ご両親がどう考えているか、子どもたちが知っているだけで、相続開始後の話し合いは驚くほどスムーズに進みます。 しかし、口頭で伝えるだけでは不十分です。ご家族間でトラブルが起きた場合、「親はこう言っていた」という水掛け論になりがちだからです。
解決事例:遺言書が導いた円満な解決
ご両親が亡くなり、実家をめぐって長男と長女が対立していました。 長男は「自分がこのまま住み続けたい」と主張し、長女は「売却して公平に分けてほしい」と譲りませんでした。 話し合いは平行線をたどり、両者の溝は深まるばかりでした。
しかし、ご両親が公正証書遺言を作成していたことが判明しました。 遺言書には、「実家は長男に相続させる。その代わり、長女には預貯金をすべて相続させる」と明記されていました。
長女は当初、遺言書の内容に納得しませんでした。しかし、私は長女に対して、ご両親がなぜこのような遺言書を作成したのか、その想いを丁寧に説明しました。 「お母様は、お兄様が今後も実家を守ってくれることを望んでいらっしゃいました。同時に、長女であるあなたにも経済的に公平な分配をしたい、という想いがあったのです」と。
ご両親の深い愛情を知った長女は納得し、最終的に遺言書の内容通りに相続手続きを進めることができました。 この事例のように、ご両親の明確な意思を遺言書として残すことが、何よりもご家族を守ることにつながるのです。
秘訣2:客観的な視点で不動産の価値を把握する
感情的な対立を避けるためには、実家の価値を客観的に把握することが重要です。
「この家は、築年数も古いから価値はないだろう」 「いや、駅から近くて土地の価値があるはずだ」
というように、個人の主観で評価額を判断すると、必ずと言っていいほど対立が生まれます。 そのため、不動産鑑定士や税理士といった専門家に依頼し、客観的な評価額を算出することが非常に有効です。
解決事例:鑑定評価で納得した相続
相続財産が実家だけだったケースです。 長男が実家を相続する代わりに、妹に代償金を支払うことで合意はしましたが、代償金の金額で揉めてしまいました。
長男は固定資産税評価額(約2,000万円)を基準に代償金を支払おうとし、妹は時価(約5,000万円)で計算すべきだと主張しました。 私はまず、ご両親が遺された大切な実家で、兄妹がこれ以上争ってほしくない、という両者の想いを汲み取りました。 その上で、不動産鑑定士に依頼して、実家の客観的な価値を算出し、その鑑定評価額(約3,800万円)を代償金の基準とすることを提案しました。
当初は難色を示していた両者でしたが、「自分たちの主観ではなく、専門家が公正に判断した金額なら」と納得し、最終的に鑑定評価額を基準に代償金の金額を決定しました。 この事例のように、客観的な第三者の視点を入れることで、感情的な対立を避け、冷静な話し合いに持ち込むことができるのです。
秘訣3:弁護士に早めに相談する
実家の相続でトラブルになりそうだと感じたら、できるだけ早めに弁護士に相談することをお勧めします。
「まだ話し合っている最中だから…」と、ご相談をためらう方もいらっしゃいますが、話し合いがこじれてしまう前に、弁護士にご相談いただくことが、早期解決への何よりの近道です。
弁護士は、単に法律を適用するだけでなく、皆様の間に立ち、冷静な仲介役として話し合いをスムーズに進めることができます。 また、実家の評価方法、代償金の金額、税金の問題など、専門的な知識をもって、皆様の状況に合わせた最適な解決策を提案します。
「もし、売却するならどうすればいいの?」「兄に代償金を支払う余裕がない場合はどうなるの?」 といった、皆様の漠然とした不安を解消し、具体的な解決への道筋を示すことができます。
まとめ
実家の相続は、ご家族の絆を試される、非常にデリケートな問題です。 しかし、適切な準備と、必要であれば専門家のサポートを得ることで、トラブルを未然に防ぎ、ご両親が残してくれた大切な実家を、ご家族みんなが納得できる形で守ることができます。
もし、実家の相続でお悩みでしたら、お一人で抱え込まず、ぜひ一度ご相談ください。 皆様の不安を少しでも和らげ、ご家族の絆を守るお手伝いをさせていただければ幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
弁護士法人かがりび綜合法律事務所 弁護士 野条 健人