寄与分に関する裁判例の解説:相続人以外の者の貢献を中心に
弁護士法人かがりび綜合法律事務所の代表弁護士、野条健人です。
相続問題の中でも、しばしば争点となるのが「寄与分」です。寄与分とは、被相続人の財産の維持または増加に特別の貢献をした相続人がいる場合に、その貢献分を相続財産から差し引いて、他の相続人に分配する制度です。
しかし、寄与分が認められるのは相続人に限定されているため、相続人ではない親族(例:長男の配偶者、孫など)が被相続人の介護や事業を手伝った場合、その貢献はどのように評価されるのでしょうか。
ここでは、相続人以外の者の寄与について判断された裁判例を中心に、寄与分制度の考え方とその適用について解説します。
このページの目次
裁判例から読み解く「寄与分」の考え方
添付資料の裁判例からは、以下のような重要なポイントが読み取れます。
1. 「特別の貢献」と認められる基準
親族の介護や家業の手伝いは、通常、扶養義務や親族としての協力範囲内と見なされることが多いです。しかし、裁判例では、その貢献が「通常の扶助の範囲を超える」と判断される場合に、「特別の貢献」として寄与分が認められています。
- 東京高裁平成22年決定): 被相続人の介護が家政婦を雇うことを相当とする状況下で行われたこと、また13年余りという長期間にわたる介護であったことから、扶養義務の範囲を超えた貢献と認められました。
- 神戸家裁豊岡支部平成4年決定: 夜通しの付きっきり看護により、介護者が自律神経失調症を患うほどの献身的な介護は、「親族間の通常の扶助の範囲を超える」と評価されました。
2. 相続人以外の者の貢献は「履行補助者」として評価される
相続人ではない者が特別の貢献をした場合、その貢献は、被相続人の相続人である配偶者や子の「履行補助者」としての寄与と見なされます。つまり、相続人である夫や親の代わりに、その配偶者や子が貢献したと評価されるのです。
- 東京高裁平成22年決定: 相続人Bの妻Cが被相続人を介護した貢献は、Bの履行補助者として評価されました。
- 東京家裁平成12年審判: 相続人Cの妻D、およびその子であるE~Gによる介護は、B(被相続人の妻)の履行補助者としての「特別の寄与」にあたると判断されました。
- 神戸家裁豊岡支部平成4年審判: 相続人Bの妻Cによる献身的な看護は、Bの補助者または代行者としてなされたものと評価されました。
3. 寄与分の算定方法
寄与分の金額は、単に費やした時間や労力だけで機械的に計算されるわけではありません。
裁判例では、介護や家業の手伝いによって被相続人が本来負担すべきだった費用(例:家政婦や介護士の費用)を免れたという側面が重視されます。
- 東京高裁平成22年決定: 家政婦を雇うことを相当とする状況下での介護であったことから、その貢献の程度を金銭に換算して200万円と評価されました。
- 神戸家裁豊岡支部平成4年審判: 通常の扶助を超える部分について、介護の内容に応じて月額3万円や9万円と評価し、総額120万円と算定しています。
4. 複合的な寄与の評価
複数の相続人やその配偶者が長期間にわたって貢献した場合、その全体像を総合的に評価して寄与分が認められることもあります。
- 横浜家裁平成6年審判: 長男とその配偶者、代襲相続人である孫が、長期間にわたり被相続人の家業(農業)を維持した貢献が、代襲相続人である孫の寄与分として認められました。
- 東京高裁平成元年決定: 長男とその配偶者の貢献が、代襲相続人である子(孫)の寄与分として相続財産の半額と評価されました。これは、長男夫婦の貢献が極めて大きいと判断されたことを示唆します。
弁護士からのアドバイス
相続人ではない方の献身的な貢献は、相続において正当に評価されるべきものです。しかし、寄与分の主張は、他の相続人との話し合いでは感情的な対立を生みやすく、解決が困難なケースも少なくありません。
もし、ご家族の中に被相続人の財産維持や介護に大きく貢献された方がいらっしゃる場合は、寄与分として適切な評価を受けるためにも、専門家である弁護士にご相談いただくことをお勧めします。
当事務所では、個別の事情を丁寧にヒアリングし、裁判例や法的根拠に基づいた寄与分の主張をサポートします。お一人で悩まず、まずはお気軽にご相談ください。
弁護士法人かがりび綜合法律事務所
代表弁護士 野条 健人
※本ブログの内容は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に対する法的アドバイスではありません。具体的なご相談は、必ず専門家にご連絡ください。