家族信託による財産管理と承継対策

高齢化社会において、ご自身の財産を将来にわたって適切に管理し、ご自身の希望通りに承継させたいというニーズが高まっています。「家族信託」は、ご自身の財産管理や、認知症などによる判断能力の低下に備える有効な手段です。

当事務所は、家族信託の設計から組成、運用までをトータルでサポートし、お客様のご家族構成や財産状況に合わせた最適なプランを提案します。将来の安心のため、財産管理や家族信託にご関心のある方はご相談ください。

家族信託で「争族」と「資産凍結」を防ぐ

弁護士法人かがりび綜合法律事務所は、大阪を拠点に、相続問題や遺産分割に特化した専門性の高いリーガルサービスを提供しております。現代社会において、相続に関する課題は、単に財産の分配に留まらず、家族間の深刻な「争族」へと発展するリスクをはらんでいます。

また、高齢化の進展に伴い、認知症などによる判断能力の低下が、預貯金の引き出しや不動産の売却を困難にする「資産凍結」という新たな問題を引き起こしています。このような複雑な状況に対し、家族信託は有効な解決策として注目を集めています。

本記事では、家族信託の基本的な仕組みから、具体的な活用事例、さらにはメリットとデメリットまでを詳述します。特に、「信託契約」の重要性や、「生前管理」がいかにお客様の財産とご家族の未来を守る上で不可欠であるかについて、解説いたします。

家族信託とは?その仕組みと登場人物

家族信託とは、ご自身の財産(金銭、不動産、有価証券など)を、信頼できるご家族に託し、その管理・運用・処分を任せる制度です。これは、営利を目的としない「民事信託」の一種であり、信託銀行などが営利目的で行う「商事信託」とは性質が異なります。

家族信託の最大の特徴は、成年後見制度や遺言では対応しきれない、より柔軟な財産管理を可能にする点にあります。

家族信託の仕組みは、「委託者」「受託者」「受益者」という三つの主要な登場人物によって成り立っています。

委託者(イタクシャ) 財産を託す人であり、信託契約の内容を決定する設定者です。多くの場合、財産を所有する高齢の親などがこれに該当します。
受託者(ジュタクシャ) 委託者から財産を託され、その管理・運用・処分を実際に行う人です。受託者は、委託者と受益者の利益のために、誠実に職務を遂行する義務を負います。配偶者、子供、兄弟姉妹などが受託者となるケースが一般的です。
受益者(ジュエキシャ) 信託財産から生じる利益を受け取る人です。委託者本人、子供、孫などが受益者になることがあります。

これらの役割は、状況に応じて同一人物が兼任できる柔軟性を持っています。特に、認知症対策など、本人の「生前管理」を目的とする場合、委託者と受益者を同一人物とするケースが一般的です。この「委託者兼受益者」という設定こそが、「生前管理」という概念を実現するための核心的な法的メカニズムとなります。

財産の所有権は受託者に移転しますが、財産から生じる利益を受け取る権利(受益権)は委託者本人に残るため、本人は生きていながらにして財産の管理を信頼できる家族に委ね、かつその利益を享受し続けることが可能です。

これにより、たとえ本人の判断能力が低下しても、財産が「凍結」されることなく、本人の意思に沿った管理が継続されるという具体的な解決策が提供されます。家族信託は、単なる財産贈与や代理とは異なり、財産を特定の目的に従って管理・運用するための独立した法的枠組みを持つため、その専門的な設計が極めて重要となります。

家族信託のメリット

なぜ今、家族信託が注目されるのか?

家族信託は、現代社会の多様なニーズに応える、非常に柔軟で強力な財産管理・承継の手段です。その多岐にわたるメリットが、今、多くの人々から注目される理由となっています。

生前管理の実現

認知症による資産凍結の防止

家族信託の最も大きなメリットの一つは、ご本人の判断能力が低下する前に契約を締結することで、認知症などを患った後も、受託者が信託財産(預貯金、不動産など)の管理・処分・運用を継続できる点にあります。高齢化が進む現代において、認知症は誰にとっても他人事ではありません。

一度判断能力が低下すると、銀行口座が凍結されたり、不動産の売却ができなくなったりといった「資産凍結」のリスクが生じ、介護費用や施設入居費用など、いざという時の資金が必要になっても、財産が活用できない事態に陥る可能性があります。

家族信託を事前に設定しておけば、受託者がご本人に代わって財産を管理・処分できるため、このようなリスクを回避し、ご本人の生活や介護に柔軟に対応することが可能となります。

思い通りの資産承継

遺言では難しい「二次相続以降」の指定

家族信託は「遺言代用機能」を持ち、ご自身の死後に資産を承継する先を信託契約の中で自由に指定できる点が特徴です。遺言書も資産承継の意思表示として有効ですが、遺言書で指定できるのは原則として一度の相続(一次相続)のみであり、例えば「父→子→孫」といった複数世代にわたる承継先を直接指定することはできません。

しかし、家族信託の「後継ぎ遺贈型受益者連続信託」を活用すれば、何世代にもわたって受益者を指定することが可能となり、ご自身の築き上げた財産を、希望する血縁者に確実に引き継ぐことができます。これにより、遺産分割協議が不要となり、相続を巡る家族間の「争族」を未然に防ぐ効果も期待できます。

成年後見制度よりも柔軟な財産管理

成年後見制度は、判断能力が低下した方の財産を保全することを主な目的としており、後見人は家庭裁判所の監督のもと、財産の維持・管理を行うことが求められます。

そのため、積極的な資産運用や相続税対策は原則として認められず、例えば居住用不動産の売却には家庭裁判所の許可が必要となり、時間と手間がかかる場合があります。

これに対し、家族信託は信託目的の範囲内であれば、受託者がより柔軟かつ積極的に財産を運用(投資、不動産売却など)することが可能です。家庭裁判所の許可が不要であるため、迅速な対応が求められる場面でも、ご本人の利益のために機動的な財産管理を実現できます。

共有名義不動産のトラブル回避と円滑な管理・処分

不動産が複数の相続人の共有名義となった場合、その売却や大規模修繕などには共有名義人全員の同意が必要となります。もし共有名義人のうち一人でも反対したり、認知症などで意思表示ができなくなったりすると、その不動産は事実上「塩漬け」となり、有効活用が困難になるリスクがあります。

家族信託を利用すれば、不動産の名義は受託者に移転し、受益者は受益権を取得するため、受託者が単独で不動産の管理・運用・処分を行うことが可能となり、こうしたトラブルを回避し、不動産を円滑に活用できます。

障がいを持つ子の「親なき後」の生活支援

親御様が亡くなった後、障がいを持つお子様の生活や財産管理について不安を抱える方は少なくありません。家族信託は、このような懸念を解消するための強力な手段となります。

親御様が信託を設定し、信頼できる親族を受託者、障がいを持つお子様を受益者とすることで、親御様の死後も、受託者がお子様の生活費や福祉サービス費用を継続的に管理・給付できる仕組みを構築できます。

これにより、お子様は経済的な不安なく、安定した生活を送ることが可能になります。

事業承継対策としての活用

中小企業のオーナー社長にとって、ご自身の高齢化や認知症による判断能力の低下は、事業継続における大きなリスクとなります。家族信託を活用すれば、オーナー社長が判断能力を喪失した場合でも、後継者を受託者として自社株式を信託することで、スムーズな経営継続が可能になります。

また、「受益者連続型信託」を利用することで、孫世代以降の承継先も明確にでき、円滑な事業承継を実現し、後継者問題による経営の停滞を防ぐことができます。

その他のメリット

家族信託には、上記以外にも様々なメリットがあります。例えば、必要最低限の財産のみを手元に残し、それ以外の資産を信託することで、オレオレ詐欺などの特殊詐欺被害を未然に防ぎ、被害額を最小限に抑えることが可能です。

また、信託財産は「倒産隔離機能」を持つため、万が一、委託者や受託者が破産した場合でも、信託財産が影響を受けることはありません。

家族信託の真価は、個々の問題解決能力だけでなく、人生の様々な段階で起こりうる複合的な課題に対し、単一の契約で「包括的な安心」を提供できる点にあります。これは、単発的な解決策(例:遺言や成年後見制度)では対応しきれない、現代の家族が抱える複雑なニーズに応える「総合的なライフプランニングツール」としての側面を持っています。

家族信託は、お客様の「将来への漠然とした不安」を「具体的な安心」へと変えるための、多角的な解決策を提供します。

家族信託のデメリットと注意点

後悔しないためのリスク理解

家族信託は多くのメリットを持つ一方で、その性質上、いくつかのデメリットや注意点が存在します。これらを十分に理解し、適切な対策を講じることが、後悔しない家族信託を実現するために不可欠です。

意思能力喪失後の契約不可

家族信託契約は、財産を託す委託者に「意思能力」が備わっている状態でなければ締結できません。認知症が進行し、判断能力が失われたと判断された場合、契約は無効となるリスクがあります。

そのため、将来の不安を感じ始めたら、ご本人が元気で判断能力がしっかりしているうちに、できるだけ早く検討を開始し、対策を講じることが極めて重要です。契約時の意思能力を証明するためには、医師の診断書を取得することや、公正証書で契約書を作成することが有効な手段となります。

受託者の負担と人材確保の課題

財産を管理する受託者には、法律上の重い責任と継続的な事務負担が発生します。具体的には、「分別管理義務」「善管注意義務」「忠実義務」「帳簿作成・保存・報告義務」などが課せられます。これらの義務を誠実に履行するためには、時間と労力が必要となるため、信頼できる人物を選任することが極めて重要です。

親族を受託者にする場合は、親族間の対立や、受託者自身の死亡・判断能力喪失といった予期せぬ事態のリスクも考慮し、信託契約書に予備的受託者の指定や、受託者の業務を監査する信託監督人の設置、あるいは複数の受託者で負担を分担する共同受託者の活用などを検討すべきです。

信託口口座開設の難しさ

金銭を信託財産とする場合、受託者個人の財産と信託財産を明確に区別し、信託財産を保全するための「信託口口座」の開設が強く推奨されます。しかし、全ての金融機関が信託口口座の開設に応じてくれるわけではなく、また、適正な信託内容でなければ開設できない場合もあります。

受託者個人名義の口座で信託財産を管理すると、受託者の個人的な債務による差し押さえや、受託者の死亡時に口座が凍結されるリスクが生じるため、事前の金融機関への確認と、専門家との連携が不可欠です。

信託できない財産

家族信託は財産管理に特化した制度であり、医療契約の締結や介護施設の入退所管理といった、ご本人の心身の健康や生活を見守る「身上監護権」は含まれません。身上監護が必要な場合には、成年後見制度など別の制度との併用を検討する必要があります。

また、年金受給権、農地、借地権など、法律上譲渡が禁止されている債権や、特別な許可・承諾が必要な財産は、そのままでは信託が困難な場合があります。

税金関係の複雑さと節税効果の限界

家族信託は、それ自体が相続税や贈与税の特別な節税対策となるわけではありません。信託設定時、信託期間中、受益者変更時、信託終了時など、信託契約の内容によって「いつ」「誰に」「どのような税金がかかるのか」が複雑に変化します。

特に、信託財産から生じる不動産所得の損失は、他の所得と「損益通算」できない場合がある点や、事業承継税制の適用猶予が利用できない場合がある点には注意が必要です。信託に精通した税理士などの専門家との連携は必須であり、予期せぬ税負担を避けるための綿密な計画が求められます。

遺留分侵害額請求のリスク

家族信託を設定しても、民法の「遺留分」に関する規定は強行規定であるため、遺留分の適用を回避することはできません。遺留分とは、特定の相続人(配偶者、子、直系尊属など)が最低限相続できる遺産の割合のことです。

信託財産が委託者の唯一の財産である場合など、他の相続人の遺留分を侵害するような信託設計を行うと、信託終了時に遺留分侵害額請求をされるリスクがあります。遺言を作成する場合と同様に、遺留分に配慮した信託設計を行うために、弁護士などの専門家と協力することが重要です。

長期的な設計と関係者間の合意形成の重要性

家族信託は、信託期間、受託者、受益者、受託者の責任・義務、税金、信託終了時の対応など、多岐にわたる事項を中長期的な視点で検討し、設計する必要があります。

この制度は比較的新しく、その法的解釈や実務運用がまだ十分に確立されていない部分があるため、安易な知識や不十分な検討で契約書を作成すると、運用時に不都合が生じ、信託を維持できなくなる可能性が高まります。

また、財産管理を特定の家族に委ねる性質上、他の親族から不満や疑念が生じ、家族間の仲が悪くなるリスクも存在します。そのため、当事者だけでなく、他の家族や親族にも丁寧に説明し、信託の目的や内容について十分な理解と同意を得ることが不可欠です。

家族信託のメリット・デメリット比較表

項目 メリット デメリット
認知症対策 判断能力低下後も財産管理継続、資産凍結回避 意思能力喪失後の契約不可、早期の検討が必要
資産承継の柔軟性 遺言では難しい二次相続以降の指定が可能 長期にわたり当事者を拘束する可能性
財産管理の柔軟性 成年後見制度より積極的な運用が可能、裁判所関与なし 受託者に重い責任と継続的な負担が発生
共有不動産 共有名義トラブル回避、円滑な管理・処分 信託口口座開設の難しさ、不動産所得の損益通算不可
障がい者支援 親なき後の生活支援、安定した財産管理 身上監護権は含まれない、他の制度との併用検討が必要
事業承継 オーナーの判断能力低下後も経営継続、円滑な承継 会社法上の手続きや税務が複雑になる場合がある
税務メリット 設定自体に特別な節税効果はない 税金関係が複雑、予期せぬ税金発生リスク
遺留分 遺留分侵害額請求のリスクは回避できない 遺留分に配慮した設計が不可欠
費用 初期費用は成年後見制度より高額になる傾向 専門家へのコンサルティング報酬が発生
専門家選び 新しい制度のため、経験豊富な専門家が少ない 実務に精通した専門家選びが重要
契約の複雑性 中長期的な設計が必要、検討事項が多い 家族・親族間の合意形成が困難な場合がある

信託契約の具体的な内容と手続きの流れ

家族信託を成功させるためには、信託契約書の作成から各種手続きに至るまで、専門的な知識と綿密な計画が不可欠です。

信託契約書作成のポイント

家族信託の根幹をなすのが信託契約書です。この文書には、将来にわたる財産管理のルールがすべて盛り込まれるため、その作成は最も重要なステップと言えます。

信託契約書には、以下の点を明確に定める必要があります。

信託の目的 なぜ信託を設定するのか、その具体的な目的(例:認知症対策、障がいを持つ子の生活支援、事業承継など)を明確にします。
信託財産の種類と範囲 どの財産(金銭、不動産、有価証券など)を信託の対象とするのか、その範囲を具体的に特定します。
財産管理方法 受託者がどのように信託財産を管理・運用・処分するのか、具体的な方法や権限の範囲を定めます。
受益者の指定 誰が信託財産から利益を受け取るのか、その指定を行います。
受託者の権限と義務 受託者の具体的な役割、責任、報酬の有無などを定めます。
信託期間と信託終了事由 信託がいつ始まり、どのような場合に終了するのかを明確にします。
信託終了後の残余財産の帰属先 信託が終了した際に、残った財産を誰に引き継ぐのか(帰属権利者)を定めます。

これらの内容に不備があると、後々のトラブルや信託口口座開設の失敗、さらには信託自体の無効につながるリスクがあるため、細心の注意が必要です。

公正証書作成の推奨

信託契約書は、私文書として作成することも可能ですが、公正証書で作成することを強く推奨します。公正証書は、公証人が法律に基づいて作成に関与するため、契約の有効性や委託者の意思能力を証明する強力な証拠となります。

これにより、後日、他の親族から契約の無効を主張されるリスクを大幅に低減でき、信託の確実性を高めることができます。

信託口口座の開設

金銭を信託財産に含める場合、受託者個人の財産と信託財産を明確に区別する「分別管理」のために、信託専用の口座(信託口口座)を開設することが不可欠です。この口座は、受託者の固有財産とは異なる独立した財産として扱われるため、受託者が破産した場合でも信託財産が差し押さえられるリスクがありません。

しかし、全ての金融機関が信託口口座の開設に応じてくれるわけではなく、また、信託契約の内容が金融機関の定める要件を満たしている必要があります。そのため、事前の金融機関との綿密な調整と、専門家のサポートが不可欠です。

不動産信託登記の手続き

不動産を信託財産に含める場合、法務局での信託登記が必須となります。これにより、不動産の名義は受託者に移転し、その不動産が信託財産であることが公示されます。信託登記は、受託者が単独で申請することが可能です。

当初の受託者から新たな受託者へ変更する場合も、所有権移転登記と信託登記が必要となりますが、特定の要件を満たせば登録免許税が非課税となる特例が適用されることがあります。

当事者(委託者、受託者、受益者)死亡時の信託の扱い

家族信託は長期にわたる契約であるため、信託契約の当事者が死亡した場合の対応を事前に契約書で明確に定めておくことが極めて重要です。

委託者死亡時

信託契約に特段の定めがない場合、委託者の地位は原則として相続人に承継されます。しかし、実務上は、委託者の相続人と受益者との間に利益相反が生じる可能性や、相続が次々と発生した場合に法律関係が複雑化するおそれがあるため、委託者の死亡時の取り決めを設けるのが一般的です。

自益信託(委託者と受益者が同一人物の信託)の場合には、特定の要件を満たすことで、信託終了時に行う不動産の所有権移転における登録免許税が軽減される特例が適用されるケースもあります。

受託者死亡時

受託者が死亡しても、原則として信託契約は終了しません。信託契約に「新受託者(予備的受託者)」が指定されていれば、その者が信託事務を引き継ぎます。指定がない場合や、指定された者が拒否した場合は、委託者と受益者の合意によって新たな受託者を選任する必要があります。

この選任ができないまま1年間が経過すると、信託が終了してしまうリスクがあるため注意が必要です。

受託者の相続人は、受益者に受託者の死亡を知らせ、新しい受託者に信託事務を引き継ぐ義務を負います。信託事務の引き継ぎには、不動産登記の名義変更や信託口口座の引継ぎ手続きが伴います。 

受益者死亡時

信託契約内で「受益者の死亡により信託は終了となる」との条項があれば、そこで信託は終了し、信託財産は帰属権利者に引き渡されます。もしそのような定めがなければ、受益権は財産的価値のあるものとして、受益者の相続財産の一部となり、相続の対象となります。

この場合、遺言書で次の受益者を指定したり、「後継ぎ遺贈型受益者連続信託」を活用して、当初受益者が死亡した場合に第二、第三受益者と複数世代にわたる承継先を事前に指定したりすることが可能です。受益者の変更に伴い、信託不動産の変更登記や相続税申告が必要となります。

信託契約は、まさに家族の財産の「未来設計図」としての役割を果たします。しかし、その設計は、将来起こりうる様々な事態(当事者の死亡、関係性の変化、税制改正など)を予測し、それらに対応できる柔軟性と堅牢性を持たせる必要があるため、極めて高度な専門知識と経験を要します。

この複雑性が、契約書作成の初期段階で専門家が介入することの決定的な理由となります。

家族信託と遺言・成年後見制度・任意後見制度の比較

項目 家族信託 遺言 成年後見制度 任意後見制度
目的 生前からの財産管理・承継、複数世代承継 死亡後の財産承継 判断能力低下後の本人の財産・身上保護 判断能力低下後の財産・身上保護(事前に本人選定)
効力発生時期 契約締結時(生前) 遺言者の死亡時 家庭裁判所の審判時(判断能力低下後) 任意後見監督人選任時(判断能力低下後)
対象財産 信託契約で定めた財産のみ 全財産 全財産 任意後見契約で定めた財産
財産管理の柔軟性 契約で定めた範囲内で柔軟な運用が可能 財産の利用・活用方法は指定不可 法律の範囲内で維持・保全が主、積極運用不可 契約で定めた範囲内で柔軟な管理が可能
身上監護 原則として対応不可 対応不可 対応可能   対応可能
家庭裁判所の関与 原則として関与なし 関与なし 監督あり 監督あり(任意後見監督人)
費用構造 初期費用は高いがランニングコストは低い傾向 比較的安価 定期的な報酬が発生 定期的な報酬が発生
二次相続以降の指定 可能(受益者連続信託) 不可 不可 不可
取消権 なし なし あり なし
財産管理方法の指定 具体的に指定可能  利用・活用方法は指定不可 個別具体的な指定は不可 具体的に指定可能 

家族信託と「生前管理」

あなたの財産を未来へつなぐ

「生前管理」とは、財産の所有者であるご本人が元気なうちから、将来の認知症や病気に備えて、ご自身の財産の管理・運用・処分を計画的に行うことです。

家族信託は、この「生前管理」を実現するための最も強力なツールの一つとして、その役割が大きく注目されています。

「生前管理」の重要性と家族信託の役割

ご本人の判断能力が低下した後も、信頼できるご家族(受託者)が継続して財産を管理できるため、資産凍結や詐欺被害を防ぎ、ご本人の生活費や医療費、介護費用などを滞りなく賄うことが可能になります。

従来の成年後見制度が、判断能力が低下した後に開始される「事後的な保護」であるのに対し、家族信託による「生前管理」は、ご本人が「判断能力があるうち」に自らの意思で将来の財産管理の枠組みを構築する「事前の計画」であるという点で大きく異なります。

この「事前の計画」という性質は、単に財産をスムーズに管理するだけでなく、ご本人が自身の人生と財産に対する「主導権」を、たとえ判断能力が低下した後も維持できるという、より深い価値を提供します。

財産が凍結され、他者(後見人や裁判所)の管理下に置かれることへの不安は、単なる金銭的な問題だけでなく、ご自身の尊厳や自立性に関わる問題でもあります。家族信託は、この精神的な安心感をもたらし、ご本人とご家族に「安心した老後」という未来を提供します。

生前贈与との違いと併用可能性

家族信託と混同されやすい制度に「生前贈与」があります。生前贈与は、財産そのものを無償で他者に移転する行為であり、年間110万円までの非課税枠(暦年課税制度)や、2,500万円まで非課税で贈与できる制度(相続時精算課税制度)などを活用することで、相続税対策に有効な場合があります。

しかし、一定額を超える贈与には贈与税や不動産取得税が発生する可能性があります。

一方、家族信託は、財産の名義を受託者に移しても、財産から生じる利益を受け取る権利(受益権)は委託者本人に残るため、原則として設定時に贈与税は発生しません。家族信託は「財産管理と承継」を目的とし、生前贈与は「財産の移転と相続税対策」を目的とするため、それぞれの制度は目的が異なります。

しかし、状況に応じてこれらを併用することで、より効果的な財産管理・承継対策が可能になることもあります。例えば、一部の財産を生前贈与で移転しつつ、残りの財産を家族信託で管理するといった複合的なアプローチも考えられます。

財産管理の負担軽減と安心感の提供

家族信託を活用することで、高齢や病気によりご自身で財産管理が困難になった場合でも、信頼できる受託者に管理を任せることで、ご本人の負担を大幅に軽減できます。

受託者が日々の金銭管理や不動産の賃貸管理、売却、金融資産の運用などを代行することで、ご本人は財産管理の煩わしさから解放され、安心して生活を送ることができます。

また、ご家族という身近な関係性が財産管理を担うことで、ご本人だけでなく、ご家族全体に大きな安心感をもたらすことが、家族信託ならではの魅力と言えるでしょう。

弁護士がサポートする生前管理の具体例

弁護士は、お客様の具体的な財産管理のニーズに応じた生前管理の仕組みを構築することをサポートします。

例えば、収益不動産の賃貸管理、将来的な売却、金融資産の運用方針の策定、さらには介護施設への入居費用への充当など、お客様の財産が未来にわたり、ご自身の希望通りに活用されるよう、信託設計を通じて導きます。

弁護士の専門知識と経験が、お客様の財産を未来へつなぐ「生前管理」を確実なものとします。

弁護士に相談するメリット

家族信託を成功させるために

家族信託は非常に有用な制度ですが、その設計と運用には専門的な知識と経験が不可欠です。弁護士に相談することで、お客様は多くのメリットを享受し、家族信託を成功に導くことができます。

複雑な法律・税務知識に基づく適切な設計

家族信託は比較的新しい制度であり、その法的解釈や税務上の取り扱いは複雑かつ多岐にわたります。例えば、信託財産からの不動産所得の損失は他の所得と「損益通算」できない場合があることや、遺留分侵害のリスク、年金や農地など信託できない財産の存在など、多くの「落とし穴」が存在します。

弁護士は、最新の法律知識と豊富な実務経験に基づき、お客様一人ひとりの状況に合わせた最適な信託設計を提案し、予期せぬトラブルや税金負担を回避するための的確なアドバイスを提供します。

必要に応じて税理士など他の専門家とも連携し、総合的な視点からお客様をサポートすることで、複雑な問題を解決し、多層的な安心を提供します。

家族・親族間のトラブル予防と調整

家族信託は、財産管理を特定の家族に委ねる性質上、他の親族から不満や疑念が生じ、家族間の仲が悪くなるリスクがあります。特に、受託者に権限が集中することで、兄弟間でのトラブルに発展した事例も報告されています。

弁護士は、第三者として中立的な立場から家族会議をファシリテートし、信託の目的や内容、受託者の責任などを丁寧に説明することで、関係者全員の理解と合意形成をサポートします。

これにより、将来の「争族」を未然に防ぎ、家族間の円満な関係を維持するための環境を整えます。弁護士は、法的側面だけでなく、人間関係の調整役としても重要な役割を担います。

信託契約書の作成と公正証書化のサポート

家族信託契約書は、将来にわたる財産管理の根幹となる極めて重要な文書です。信託口口座の開設ができない、あるいは信託契約の無効を主張されるといったトラブルは、契約書の不備に起因することが少なくありません。

弁護士は、お客様の意向を正確に反映し、法的要件をすべて満たした適切な契約書を作成します。また、契約の有効性を高め、委託者の意思能力の証明にもなる公正証書での作成をサポートし、公証役場との連携も円滑に行います。これにより、契約の確実性と信頼性を最大限に高めることができます。

信託口口座開設や登記手続きの支援

信託口口座の開設は金融機関によって対応が異なり、複雑な手続きを要する場合があります。また、不動産を信託財産とする場合の信託登記も、専門的な知識と実務経験が必要です。これらの手続きは、一般の方にとっては非常に煩雑であり、時間と労力を要します。

弁護士は、これらの実務的な手続きを円滑に進めるための支援や代行を行い、お客様の負担を大幅に軽減します。弁護士が実務に精通していることで、手続きの遅延や不備によるトラブルを未然に防ぐことができます。

長期的な運用におけるアドバイス

家族信託は長期にわたる契約であり、その期間中に受託者の交代、信託内容の変更、新たな財産の追加など、様々な状況変化が起こり得ます。また、受託者が病気になったり、亡くなったりして管理ができなくなるリスクも考慮しなければなりません。

弁護士は、これらの将来的な事態を見据えたアドバイスを提供し、信託がお客様の意図通りに機能し続けるよう、継続的にサポートします。後継受託者の選定や、信託監督人の設置など、長期的な視点での安定運用に向けた助言を行うことで、お客様の安心を確保します。

まとめ

家族信託で安心の未来を

家族信託は、高齢化社会における財産管理と円滑な資産承継のための、極めて強力かつ柔軟なツールです。ご本人の判断能力が低下した場合の「資産凍結」を防ぐ「生前管理」の実現、そして「信託契約」によって複数世代にわたるご自身の意思通りの資産承継を可能にするその機能は、多くのお客様にとって、将来の不安を解消し、安心をもたらす重要な手段となります。

家族信託は、ご本人の意思能力があるうちにしか契約できない制度です。そのため、将来の不安を感じ始めたら、できるだけ早く検討を開始し、ご家族で話し合うことが何よりも重要です。

弁護士法人かがりび綜合法律事務所は、大阪で相続問題、遺産分割に強い弁護士として、皆様の具体的な悩みに対し、親身に寄り添い、最適な解決策を提供することをお約束いたします。

家族信託の複雑な設計から手続き、そして長期的な運用まで、一貫してサポートできる弁護士法人かがりび綜合法律事務所へ、まずは無料相談からお気軽にご連絡ください。お客様とご家族の安心の未来を共に築くため、当事務所は全力でサポートさせていただきます。

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