弁護士野条健人の相続ブログ|「共有」は「共倒れ」の始まり?共有物分割のトラブルを避けるために
こんにちは。弁護士の野条健人です。 相続のご相談をお受けしていると、「実家が兄と私の共有名義になっているのですが、どうすればいいでしょうか?」というお悩みをよく耳にします。
一つの不動産を複数人で所有する**「共有」**は、一見すると公平なようでいて、実は将来のトラブルの火種になりかねません。私はこれを「共倒れ」と呼んでいます。
今回のブログでは、共有名義の不動産がなぜトラブルになりやすいのか、そして、その問題を解決するための**「共有物分割」**について、具体的な事例を交えながらお話ししたいと思います。
なぜ「共有」は「共倒れ」の始まりなのか?
共有名義の不動産は、次のような問題が起こりやすいのです。
- 意思決定が困難になる 建物の大規模な修繕や売却など、共有不動産に関する重要な決定をするには、原則として共有者全員の同意が必要です。共有者の一人でも反対すると、何も進めることができなくなってしまいます。
- 維持費や税金の負担をめぐる争い 固定資産税や管理費、修繕費などは、共有者全員で負担することになります。しかし、「私は住んでいないのに、なぜ私が払わなければならないのか」「もっと安く済む方法があるはずだ」といった不満から、対立が生まれることがあります。
- 相続がさらに複雑になる 共有者が亡くなった場合、その持分はさらに細分化され、次の世代に引き継がれます。これにより、共有者がネズミ算式に増えていき、将来的にますます意見をまとめることが難しくなります。
これらの問題が重なり、最終的には**「共有状態のまま放置」**という、最も望ましくない状態に陥ってしまうのです。
共有名義の不動産を解消する「共有物分割」とは?
「共有物分割」とは、共有名義の不動産を、共有状態から単独名義に変更するための手続きです。 この手続きには、大きく分けて以下の3つの方法があります。
- 現物分割
- 代償分割
- 換価分割
1. 現物分割:一つの土地を複数に分けて所有する
これは、一つの土地を物理的に複数に分割し、それぞれの共有者が単独で所有する方法です。
【解決事例:土地を分筆して解決したケース】
ご兄弟で共有していた広い土地がありました。 兄は「この土地をすべて相続し、将来はここに家を建てたい」と考えていました。一方、弟は「土地を売却して、現金で分けたい」と主張していました。 話し合いは平行線をたどっていましたが、私は、土地を2つに分割する「分筆」を提案しました。
具体的には、兄が家を建てるのに十分な面積を確保し、弟が売却しやすいように、道路に面した部分を分筆して、それぞれが単独で所有することにしました。 この方法であれば、兄は土地を守ることができ、弟は自分の持分を自由に売却して現金化することが可能になります。 結果的に、お互いの希望が叶う形で、円満に共有状態を解消することができました。
2. 代償分割:共有者が他の共有者の持分を買い取る
これは、特定の共有者が、他の共有者の持分を金銭で買い取る方法です。 共有名義の実家に住み続けたい、といった場合に有効な手段です。
【解決事例:実家を買い取って単独名義にしたケース】
ご両親が亡くなり、実家が3人兄弟の共有名義になりました。 長男は実家に住み続けたいと希望していましたが、他の兄弟はすでに持ち家があり、代償金を受け取りたいと考えていました。 長男は代償金を支払うだけの十分な現金がなかったため、話し合いが進みませんでした。
私はまず、実家の客観的な評価額を算出し、その金額を基準に代償金の金額を提示しました。 その上で、長男が代償金を支払うための資金を、金融機関からの融資でまかなうことを提案しました。 その結果、長男は実家を単独で所有することができ、他の兄弟も納得のいく代償金を受け取ることができました。
3. 換価分割:不動産を売却して代金を分ける
これは、共有不動産全体を売却し、その売却代金を共有者で分ける方法です。
【解決事例:誰も住む予定がない実家を売却したケース】
ご兄弟で実家を共有していましたが、全員が遠方に住んでおり、実家に住む予定はありませんでした。 しかし、いざ売却しようとしても、共有者の一人が「まだ売るにはもったいない」と反対し、手続きが進みませんでした。
私は、反対している共有者に対して、空き家のまま放置することのリスク(固定資産税、維持管理の手間、老朽化による価値の低下など)について、具体的に説明しました。 また、将来的にさらに共有者が増えることで、売却がますます困難になる可能性についても伝えました。 冷静な客観的事実を伝えることで、最終的に共有者全員が売却に同意し、得られた売却代金を公平に分ける形で解決することができました。
まとめ:共有状態を解消することが、将来の安心につながる
「共有」という状態は、一見、公平に見えますが、将来的に大きなトラブルに発展するリスクを抱えています。 もし、ご家族と共有名義の不動産をお持ちでしたら、将来、**「誰がどうやって使うのか」「管理費はどうするのか」**について、早い段階で話し合うことをお勧めします。
そして、話し合いが難しい場合は、専門家である弁護士にご相談ください。 弁護士は、単に法律を適用するだけでなく、皆様の間に立ち、冷静な仲介役として、最適な解決策をご提案します。 共有状態を解消することが、ご家族の絆を守り、将来の安心につながるのです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
弁護士法人かがりび綜合法律事務所 弁護士 野条 健人