預貯金は遺産分割の対象?|実務と判例の変更から学ぶ相続の進め方
相続財産と聞いて、皆さんは何を思い浮かべますか?多くの方が、不動産や預貯金、株式などを想像されるかと思います。
相続財産は、法定相続人が複数いる場合、原則として全員で話し合い(遺産分割協議)を行い、どのように分けるかを決めなければなりません。
しかし、長年にわたり、この預貯金の取り扱いについて、実務の運用と最高裁判所の判断に大きな食い違いがありました。
今回は、この預貯金の相続を巡る問題と、現在の法的な考え方について、分かりやすく解説します。
過去の最高裁判所の判断:「預貯金は遺産分割の対象外」
以前の最高裁判所の判断では、預貯金は「可分債権」として扱われていました。これは、簡単に言えば「すぐに分けられるお金」ということです。
この考え方に基づくと、預貯金は遺産分割協議を待つまでもなく、相続開始と同時に、法定相続分に応じて各相続人に自動的に帰属するとされていました。
例えば、相続人が子ども2人(兄と弟)の場合、被相続人の預貯金は、遺産分割協議を行う前から、当然に兄と弟に2分の1ずつ帰属する、という理屈です。
この判断は、一見シンプルで合理的にも思えます。しかし、実際には様々な問題を引き起こしていました。
なぜ問題だったのか?
この考え方を厳密に適用すると、遺産分割協議が非常に困難になるケースが多発しました。
例えば、以下のような状況です。
- 兄:親と住んでいた実家(不動産)を相続したい
- 弟:不動産はいらないので、預貯金を相続したい
このようなケースは、相続においてはごく一般的です。しかし、預貯金が遺産分割の対象外だと、弟が希望する「預貯金を全額相続する」という合意を形成するのが難しくなってしまいます。
実務では、相続人全員の合意を得た上で、**「不動産は兄が相続し、預貯金は弟が相続する」**といった形で、相続人全体の公平性を図るために調整が行われていました。しかし、これは判例の考え方とは異なる運用であり、法的な不安定さが常に存在していました。
現在の最高裁判所の判断:「預貯金も遺産分割の対象」
このような実務の状況を踏まえ、平成28年12月19日、最高裁判所は**「預貯金も遺産分割の対象となる」**という、これまでの判例を変更する判断を下しました。
この判例変更は、相続実務において非常に大きな意味を持つ画期的な出来事でした。
判例変更のポイント
- 相続人全員の合意が重要: 預貯金が遺産分割の対象となることで、「不動産と預貯金」をまとめて話し合うことが可能になりました。これにより、相続人全員が納得する公平な遺産分割協議を進めやすくなりました。
- 実務と判例の統一: 長年乖離していた実務の運用と判例の考え方が一致したことで、相続手続きの安定性が向上しました。これにより、不要なトラブルを未然に防ぎ、スムーズな相続を実現できます。
この変更により、相続人としては、預貯金を含むすべての遺産をトータルで見て、どう分けるかを話し合うことが、より重要になりました。
まとめ:遺産分割協議の重要性がさらに増した
今回の判例変更は、預貯金も不動産などと同様に、遺産全体の中でバランスをとりながら分割するべき財産であるという考え方を明確にしたものです。
これは、相続人の皆様にとって、遺産分割協議の重要性がさらに増したことを意味します。
もし、相続財産に預貯金が含まれており、分割方法についてお悩みでしたら、早めに弁護士に相談することをおすすめします。相続に強い弁護士は、新しい判例や実務の動向を踏まえ、お客様一人ひとりの状況に合わせた最適な解決策を提案することができます。
当事務所では、遺産分割協議のサポートから、複雑な相続手続きの代行まで、幅広いサービスを提供しております。ご相談は無料ですので、どうぞお気軽にご連絡ください。
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