遺言書の有効性が争われた訴訟|相続に強い弁護士が解説
相続は、被相続人が遺言書を残しているかどうかで、その進め方が大きく変わります。もし有効な遺言書が残されていれば、原則としてその内容が優先され、遺産分割協議は不要となります。しかし、もしその遺言書が法的に無効と判断された場合、遺言は効力を発揮せず、法定相続人が法定相続分に従って遺産を分割することになります。
そのため、相続が開始し遺言書が発見されたら、まずはその遺言書が法的に有効なものであるかどうかを慎重に確認することが何よりも重要です。
なぜなら、遺言書が有効か無効かによって、遺産分割の進め方や結果が全く異なってくるからです。
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遺言の有効性が争われる主なケース
遺言書の有効性は、様々な角度から争われる可能性があります。特に、以下の3つのポイントが争点になることが多く見受けられます。
1. 遺言書の偽造・変造
最も典型的なケースは、遺言書が被相続人本人の意思に基づき作成されたものではなく、特定の相続人や第三者によって偽造されたり、内容が変造されたりしているのではないかという疑いです。
例えば、被相続人の筆跡を真似て書かれた遺言書や、被相続人が書いた文章の一部を削除・加筆して都合の良い内容に変えられた遺言書などが問題となります。このような場合、筆跡鑑定を行うなどして、遺言書が本当に被相続人によって作成されたものなのか、科学的な証拠に基づいて真実を明らかにする必要があります。
2. 遺言能力の有無
遺言書を作成する際、被相続人に「遺言能力」が備わっていたかどうかも重要な争点です。
民法上、遺言は満15歳以上であれば誰でも作成できますが、遺言の内容を理解し、その結果を弁識するに足る能力がなければ、法的に有効な遺言書とは認められません。例えば、認知症や精神疾患を患っていた被相続人が、判断能力が低下している状況で遺言書を作成した場合、その遺言書の有効性が問われることになります。
医療記録や介護記録、生前の言動などを詳細に調査し、遺言作成時の被相続人の精神状態を明らかにする必要があります。
3. 遺言書作成における強要・詐欺
遺言書が、被相続人の真の意思に基づかず、特定の人物に強要されたり、欺罔(ぎもう)されたりして作成されたのではないかという疑いです。
例えば、特定の相続人が被相続人を軟禁状態に置いたり、精神的に追い詰めるなどして、自分に有利な遺言を書くよう迫ったケースや、虚偽の情報や不利益な事実を伝え、錯誤に陥らせて遺言書を書かせたケースなどがこれに該当します。
このような場合、被相続人と特定の人物との関係性や、遺言書作成に至るまでの経緯を詳細に立証し、遺言書に記載された内容が被相続人の真意ではなかったことを主張する必要があります。
遺言書の有効性が争点となった訴訟の判例
実際に遺言書の有効性が争われた裁判例は多数存在します。その中でも、特に注目すべき判例をいくつかご紹介します。
添え手による遺言の有効性(最判平成25年1月22日)
この事件では、被相続人が第三者の**「添え手」**による補助を受けながら自筆証書遺言を作成したことの有効性が争われました。
事案の概要
被相続人は右手に麻痺があり、自筆で文字を書くことが困難な状況でした。そこで、隣に座った女性が、被相続人の右手に自分の手を添えて補助しながら、遺言書の全文、日付、氏名を筆記させました。この遺言書に対し、他の相続人が「本人の自筆ではない」として無効を主張したのです。
最高裁判所の判断
最高裁は、以下のように判断しました。
「遺言者が、身体の不自由などから、他人の添え手によって補助を受けて、遺言書を作成した場合であっても、その添え手が、単に始筆、運筆、終筆を容易ならしめることを目的として、その者の意思に基づいてこれに加えられたにすぎないものと認められ、かつ、その作成された遺言書に、遺言者の筆跡が表れていると認められるときは、その作成は民法968条1項にいう遺言者の自書にあたるものと解するのが相当である。」
これはつまり、添え手による補助があったとしても、それがあくまで被相続人の自書を助けるためのものであり、被相続人の意思に基づいて行われ、被相続人の筆跡が残されているのであれば、法的に有効な「自書」と認められる、ということです。
この判例は、自筆証書遺言の「自書」の解釈を広げ、本人の筆跡が残っているか否かを重要な判断基準としました。
日付の記載と作成日のズレ(最判令和3年1月18日)
この判例では、遺言書に記載された日付が、実際に押印などの形式が整えられた日と異なっていたケースで、遺言書の有効性が争われました。
事案の概要
被相続人は入院先の病院で自筆証書遺言の全文と日付、氏名を自書しました。しかし、押印は後日、弁護士が立ち会った別の日に行われました。このため、遺言書に記載された日付と、遺言の全ての要件(自書・日付・氏名・押印)が揃った日が異なることが問題となりました。
最高裁判所の判断
最高裁は、以下のように判断しました。
「民法968条1項が自筆証書遺言の方式として遺言者が遺言書に日付を自書することを求めたのは、遺言がされた日を特定することにより、遺言能力の有無、他の遺言書との前後関係等を判断する資料とするとともに、遺言書の存在を明確にする趣旨に出たものである。この趣旨に鑑みれば、遺言の作成に2日以上の期間を要したとしても、遺言書に遺言の全文、日付及び氏名を自書し、これに押印する行為は、一体として、遺言者の最終的な遺言意思の確認行為とみるのが相当であるから、その完成の日を遺言書の作成日と解するのが相当である。」
つまり、遺言書の形式が全て整った日(押印された日)が、遺言の完成した日、すなわち作成日であるとしました。そして、その作成日と遺言書に記載された日付が異なっている場合、遺言は日付の要件を満たさず、無効になると判断したのです。
この判例は、遺言書に記載する日付が、単なる形式的な要件ではなく、遺言書が完成した日を正確に記載する必要があることを明確に示しました。
顧問弁護士への全財産遺贈(京都地判平成25年4月11日、大阪高判平成26年10月30日)
この裁判では、被相続人が自身の全財産を顧問弁護士に遺贈する内容の遺言書を作成したことについて、その遺言能力や詐欺・強要の有無が争点となりました。
事案の概要
被相続人は、生前に相談していた顧問弁護士に対し、数億円に上る全財産を遺贈する内容の自筆証書遺言を作成しました。他の相続人は、被相続人が高齢で判断能力が低下しており、また顧問弁護士に欺かれてこのような内容の遺言書を作成させられたと主張し、遺言書の無効を訴えました。
裁判所の判断
一審の京都地裁は、被相続人の精神状態や弁護士との関係性を詳細に分析し、「被相続人は弁護士から虚偽の説明を受けて遺言書を作成した」と認定し、遺言書は無効と判断しました。
しかし、控訴審の大阪高裁は、顧問弁護士の関与が遺言書作成に影響を与えたことは認めたものの、「被相続人の遺言能力が失われていたとはいえず、また弁護士の行為が強要や詐欺にあたるほどのものではなかった」と判断し、一審判決を取り消して遺言書を有効としました。
この判例は、被相続人と遺贈を受ける者との関係性が特殊な場合、その遺言書の有効性はより厳格に判断される可能性があることを示唆しています。
遺言書の有効性で困ったら、まずは弁護士にご相談を
ここまで見てきたように、遺言書が無効になるケースは、単なる形式不備だけでなく、作成時の状況や被相続人の精神状態といった、非常に複雑な事情が絡むことがほとんどです。
たとえ遺言書が残されていたとしても、その有効性が疑わしいと感じた場合は、早めに弁護士に相談することをお勧めします。専門家である弁護士は、過去の裁判例や法律の知識に基づいて、遺言書の有効性を客観的に判断し、適切な対応策を提示することができます。
当事務所ができること
弁護士法人かがりび綜合法律事務所では、遺言書の有効性に関する問題について、豊富な経験と実績を誇ります。
- 遺言書の有効性に関する法的見解の提示: ご相談いただいた遺言書の内容や作成時の状況を詳しくお伺いし、その遺言書が法的に有効か、無効を争う余地があるかについて、専門的な見地から意見を述べます。
- 証拠収集のサポート: 遺言能力の有無や強要・詐欺の事実を立証するためには、医療記録や介護記録、関係者からの聞き取りなど、多岐にわたる証拠が必要となります。当事務所が、これらの証拠を効率的に収集するためのアドバイスや、実際の調査をサポートします。
- 遺言無効確認の訴訟代理: 遺言書の有効性が争点となる場合、遺言無効確認の訴えを提起することになります。当事務所が、お客様の代理人として、交渉から訴訟までを一貫してサポートし、最善の結果を導き出すために尽力します。
- 相続手続き全般の支援: 遺言書の有効性が確定した後も、遺産分割協議や各種名義変更など、相続手続きは多岐にわたります。当事務所が、遺言の有効性問題だけでなく、その後の相続手続き全般にわたり、お客様を強力にバックアップします。
遺言書の有効性に関する問題は、相続人同士の感情的な対立を生みやすく、事態が長期化する傾向にあります。お一人で抱え込まず、私たち専門家にご相談ください。お客様の不安を「かがりび」のように照らし、スムーズな解決へと導きます。
ご相談は、お電話またはお問い合わせフォームより、お気軽にご連絡ください。私たちは、お客様のお悩みに誠実に向き合い、最適な解決策をご提案することをお約束いたします。